金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P1 平成24年6月29日(金)

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 これはいったい何なんだろう? 今までの感覚とはどこかが違う。これが今まで自分が探し求めてきたものなんだろうか? 哲に探し求めてきたものとは違う。葉子の子供に感じていたものとも違う。絵画の陰に感じられたものとも何かが違う。これはいったい何なんだろう? 
 フランスから、そしてヨーロッパを旅している葉子から、弓彦宛に絵はがきが届いていた。それは彼女の彼に対する礼状のようなもので、呪縛を解かれた者の喜びと感謝に満ちあふれたものだった。彼はその便りを読みながら、自分に欠けてしまったものの跡のようなものを探っていた。彼にとっては初恋というよりはもっと切実で奥深い想い、生涯に一人しかいない相手、そんな女性であった葉子がいなくなったという感じ。架け橋となっていた葉子の子征司が、彼女から離れてから感じられ始めた喪失感。そんなものをまさぐり続けていた彼に、今までにはなかった感覚が生まれてきていた。それはゴーガンの絵を見ているときに感じた何かに端を発していた。ヨーロッパと南洋に架けられている橋、歴史以前の古代にまで遡っていく何ものか、たとえば、役小角が古い日本の何ものかに繋がるものとして蔵王大権現を勧請した、そんな感じのものだったのかもしれない。
 内部から発したあの光と何かのかかわりがあるんだろうか? どこか似たようなものが感じられる不可思議なものだけれども、これはいったい何なんだろうな。自分の感覚に触れてくる得体の知れないこのうごめき。葉子につながっている何かなんだろうか? 恋とか愛情とか、そうした類いのものなんだろうか? どうもそんなものではない気がする。そんな浅薄な浮ついた感情ではない。葉子との間には親和力とでも言うような、何か特殊なつながりのようなものがいつでもあった。葉子がいなくなった今、彼女との間の架け橋とでもいうようなものが感じられているんだろうか? どうもそういうものとももう一つ違うような気がするけど、それじゃこれはいったい何なんだ?

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