金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P2 平成24年7月6日(金)

 それは光のように見えるものではなかった。気配とでも言えばいいのだろうか、見えないエネルギーのうごめきのようなもので、もしかしたらそれが光の元なのではないかと思えるような、現実にはない感覚であった。それは光の体験をしたときと同様の、訳のわからない、とらえどころのない、説明のつかない現象であった。宗教的なものでも、心霊現象といった感じのものでもなく、かといって現実的なものでもなかった。彼が常日頃から探し求めていたもの、それにつながる何ものかであることは確かなことのように思われたが、やはりそれも何なのかよくわからないのだった。
 どうすればいいんだろう。このままではいられない焦りのようなものが沸き上がって来る。じっとしてはいられないほど、いたたまれない感じの苛立ちが湧いてくるぞ。葉子を追えばいいんだろうか? しかし、そんなことなどできるわけがない。紀子や子供を捨ててそんなことなどできるわけがない。それほど自分は不道徳な人間ではないし、悪や欲望にのめり込めるたちでもない。そういう意味では自分は弱い人間でしかない。紀子は自分にとって大切な妻だ。彼女のおかげで生きる道が開けたわけだし、家庭にも恵まれている。こんなことは、葉子を想って暗い精神の闇の中をうろついていた頃には、とても考えられなかったことではなかったか?
 小説の中に逃げ込んで、なんとかごまかそうとし続けていた自分を、その暗闇から連れ出してくれたのは紀子だったし、子供達だってかけがえのないものに思える。自分は幸せの中にいる。それをなぜ壊さなければならないんだ? 馬鹿げている。これはいったい何なのだ?
 それは意志のようなものでもあったのだろうか。弓彦のものではない何か別なものがうごめいている。狂気に発展していきそうな強烈な何かだった。自分ではコントロールできないほどに強く彼を突き動かすエネルギー、独鈷禅から来る発狂現象ではないのかと彼は考えてもみたが、それならそれでそれを何とかしなくてはならなかった。そのためにどうすればいいかという問題に関しては、やはり葉子が言っていたように誰か実力のある、経験豊富な行者か超能力者、神秘主義者、心霊家のような誰かに頼るしか方法はないのかもしれなかった。それほどに彼を動揺させるものだったが、それでも彼にはそうした誰かにすがるくらいなら、精神病院に行ったほうがいいように思えるのだった。

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