金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P9 平成24年8月24日(金)

 朝が来て目覚めたとき、光の主はまだ左目の横にあった。頭はしびれていた。弓彦は普通に洗面をし、朝食をとり、料金を払って宿を出た。しかし車の運転席に座ってみて、危険を感じた。紀子に来てもらうか、それともバスで帰るか? 彼は後者を選んだ。そして車を宿に預けてバス停に向かった。茫然自失した状態で彼はバスに乗り、電車に乗り換え、家に戻った。家には誰もいなかった。彼は紀子の実家に電話をかけて、帰宅したことを告げた。
 夕方子供を連れて帰ってきた紀子に、弓彦は告げた。
「異次元の目が開いた。今でもまだ見えている」
「だいじょうぶですか?」
「たぶん。まったくの未経験というわけではないし、子供たちで研究してきたから」
「気違いにならないでくださいね」
「なりそうだけど、今までも自分で乗り越えてきたから」
 そういう話をしている間も、二人の子供達は親にからまってじゃれついていた。食堂には弓彦が作った夕食が並んでいた。子供たちは歓声をあげて食卓に座り、食べ始めた。
「食事が作れるということは、ほとんど正常ということですね」
「そういうことをしている方が落ち着くんだ。まともに出来ていれば正常とみなしていいんだろうけど、意識の方は相当乱れている感じだ。碁で調整してみたいんだけど、いいかな」
「いいですよ。子供達の世話がすんだらお相手します」

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