金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P27 平成25年1月4日(金)

 出て来たのは雑音だった。そして呪いのような嫌な感じ。彼はそれを身に受けないように無視して仕事に集中することにしていたが、気を緩めてのんびりしたり、哲のことを思ったりすると、すぐにそうした苛立たしい、異次元がらみの何かが襲ってくる、という経験をしていた。
 あまりにもわずらわしいので、初めに現れた神に思いを向けて、そのことの調整をしてみようとしたが、受け入れてもいない神を思うことには抵抗があった。そのためその効果はほとんどないままで、袋小路に入り込んで行き詰った状態が続くのだった。だからといって葉子を呼ぶわけにもいかず、ただただ仕事に集中するしかないのだった。幸い仕事の調子は良かったので、それなりに自分の時間を過ごすことはできたが、落ち着いた状態とはとても言えなかった。
 仕事に一段落がつくと、彼は開きかかっている意識の回路を使って、哲を探す癖がついていた。しかしそれは自分で取り組むというよりは、向こうからやってくるというような感じだった。自分ではやりたくない場合や、他のものに意識を向けようと思うときでも、哲が優先されていくからだった。そして、そのときは必ずと言っていいほど、例の女行者のような感じがやって来て、そちらとのせめぎあいのひと時が入るのだった。
 こんなことはやめたいんだけどなあ。なんでこんなにしつこくつきまとってくるんだろう? 哲とかかわりがあるのかなあ? 哲との間に入って何かをしているということなんだろうか? これが邪魔になって哲と繋がれないんだろうか? いったいこの女のようなものは何なんだ? 人間なんだろうか? それとも亡者か亡霊か、先祖か、あるいは妖怪なんてことはないんだろうな。まさか生霊なんてことではあるまいな。
 ああそうか、哲の骨がまだ残っているからか。やっぱり哲の言うように完全に処理してしまえばよかったのかなあ。骨はまだ岩間家にあるんだよな。俺が処理しなければならない義務は残っているんだぞ。そのからみで何者かが出てきているんだろうか? そうなのか? そういうことなのか? もしそうだとしたらどうしたらいいんだろう。俺はそうした迷信とか妄想のようなものは認めなかったんだけどなあ。宗教領域には入りたくないよ。薄暗くて薄汚くておぞましい呪術集団か、あるいはきちがい族とでも言うような、そんな土俗的な怨霊世界には入りたくないよ。やめてくれ。あっちへ行け。出るなら哲を出せ。哲はこんなやつらに取り付かれて、身動きできなくなっているのかもしれないな。だとしたらどうすればいい?

back next
e-mail:ksnd@mail.ksnd.co.jp
Copyright © 2013 Kousendou,Inc. All right reserved.