金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P28 平成25年1月11日(金)

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 哲の骨はまだ岩間家の実家にあるらしかった。紀子に聞いてみると、母親が自分の箪笥の中に大事にしまっているのだという。遺言があるので、勝手に墓地に入れることもできず、供養もできないため、じっと胸に思いを秘めて耐え忍んでいるという。
 女の怨念のようなものは、哲の母親なんだろうか? そんな感じではないけど、有り得ないことではないな。騒ぎ立てるような女性ではないから表には出さないが、泣いて俺に訴えかけてきた顔は、まだ忘れられない。自分が悪いわけではないはずだけど、家族や親族にしてみれば、許せることではないよなあ。よく紀子との結婚を許したものだ。改めて感心するよ。粗末にしてはバチが当たる。
 考えないようにして、忘れてしまっていた思いが湧き上がってきたとき、弓彦は自分の立場を改めて考え直さないではいられなかった。紀子はそのことにほとんど触れなかったし、家族も弓彦に面と向かっては何も言わなくなっていたが、心の内の思いに関しては、うかがい知れないものがあるのかもしれなかった。骨の処理ができなくなってしまったのは、弓彦のせいだった。しかしそれは、岩間家の家族との間に立たされる者にしてみれば、譲れない責任、あるいは義務だった。そして、それがあったからこそ逆に岩間家でも彼を許し、受け入れてくれたほどのものではあったのだ。
 そういう訳か。まだ終わってはいないんだ。自分の責任も義務も終わってはいないということか。辛いなあ、また岩間の実家へ行って、この問題を取り出さなければならないんだろうか? せっかく沈んでしまっている思いをまたかき立てなくてはならない。気持ちをとげのある手でかき回すようなことをまたするのか。嫌だなあ。辛いよ。どうしよう。できるかな。あの母親、もつかなあ。
 だけどこれをやらないと哲の問題は解決しないんじゃなかろうか。そのことは考えないようにして逃げてばかりいたけど、そこに問題の根幹があるのかもしれない。女の怨念、あの母親ではないとは思うけど、誰かに頼んでやってもらっているとしたらどうなる? 女の行者に供養を頼むとか、親族とか、知り合いの誰かがからんでいるとか、有り得ないとは言いきれない。出掛けて話してみるか。悶々と苦しんでいるよりいいかもしれない。

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