金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P29 平成25年1月18日(金)

 岩間家の古美術商店や実家にはときどき出掛けていたので、行くことにはさほどの抵抗はなかったが、母親に哲の問題を持ち出すことには、相当の覚悟が必要だった。母親は苦痛の色を隠すことができず、弓彦に対しても悲しみの言葉を出してきた。彼も哲が自分の周辺をうろついていることを、そのとき初めて口にした。紀子からそこらあたりの話を聞かされていた母親は、そのことで驚くことはなかったが、興味深そうに様々なことを確認してくるのだった。その態度から彼は、やはり自分が岩間家に受け入れられているということを改めて理解したし、呪い女と母親との間には、何の関係もないことを確信したのだった。
 自分と同様に苦しんでいる弓彦に対して、母親は同情さえしてくれたし、責任を取って義務を果たそうとする彼の態度に対しては、信頼感すら寄せてくれたのだった。彼は哲のことで身体を壊し、その後遺症に悩む母親をいたわり、自分の無能を詫びるのだった。哲の骨に関しては、母親はどう説得しても手放してはくれなかった。結局問題の解決はまたまた先送りされることになってしまい、お互いの気持ちを再確認するだけで会談は終わったのだった。
 何か別な手を考えなくてはならないな。彼岸の岬へ行ってみるか。あれ以来一度も行ったことがないし、何かの手掛かりが出てくるかもしれない。一人で行ってくるか。昇に負担をかけるのはもうやめよう、自分で何とかする方法を探ることにしたほうがいい。家族連れというのも変だし、紀子や葉子を連れ出すのも今更という感じだしな。紀子に話したら行くと言うだろうか? 葉子のほうはまず駄目だろう。
 最乗寺に行ってみるのもいいかもしれない。もしかしたらそこらあたりに関係があるのでは? そうか、お寺があった。なんで今まで気がつかなかったんだろう。哲にしてみればあそこが起点のようなものじゃないか。まさかあそこの尼さんなんてことではないだろうな。だけどあそこに恨まれる理由はないはずだが。それでも少し動いた方がよさそうだ。何だか手応えのようなものが出てきたかな? 母親に会いに行ってよかったわけだ。何かが動き出している感じがする。

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