金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P38 平成25年3月22日(金)

 弓彦の異常な言動に慣らされてしまっていた紀子は、常識外れで理解できないことだったが、彼の人間性が失われているのではないことを見て取って、玄関まで立っていって送り出した。弓彦は夜の中を駅まで歩いていって、未知の経験の世界へと入っていった。緊張感と恐怖感に包まれたまま、電車に乗り、乗換えて、目的地の駅に着いた。そして距離のある車道ではなく、昔からの山道へと入って行った。
 おかしいな。なんで知らない道へ入って行くんだろう。車道なら行ったことがあるからおおよその見当はついているのに、なんで知らない山道の方へ行こうとするんだろう。この確信に満ちた感覚は自分のものではないな。恐怖感はなくなってはいないが薄れている。緊張感もさほどない。山道への入り口を入ったところまでで消えてしまった。後は一本道なんだろうな。
 懐中電灯すら持たずに来たので、山道は暗かった。駅から山への入り口までは街灯がついていたので普通に歩けたが、山道に入ってからは勘だけが頼りのような闇であった。幸い月が出ており、星もたくさんあったので、道は薄っすらとは見えていた。弓彦はその道を歩いていったが、安心感のようなものに包まれていた。不思議なことだった。
 どうなってるんだ? こんなことは初めてだが、何が始まるんだろう? それにしても恐ろしい感じがないな。緊張感すらなくなっている。確信に満ちたこの感覚、この道を登って行けばそれでいいという思い、これはいったい何なんだろう? いったい俺はどうなっていくんだろう? これが人生というものだろうか? こんな生き方ってあるんだろうか? こんなこと考えてみたこともなかったなあ。
 山道は一本道だったので迷うことはなかった。所々に街灯がついていて、参道であることの確認ができたので、不安や恐れを感じる必要もなかった。歩きやすい道だったので、さほど苦労をしないで山上の街までそのまま上がることができた。あとは御嶽神社への道が残っているだけだったが、弓彦はお参りするつもりもないまま、ただ神社目指して導かれるようにして階段を登っていった。そして薄暗い神社の前まで上がって、参拝の真似事をすることになった。
 あかんべをしたくなっているんだけど、どうなっているんだ? どういうことですか? 呼びつけたんでしょう? 何の用があるんですか? 文句を言わずに黙って祈れ。なんちゃって。しょうがないな、祈るしかないのか。ウワー、鎮まっていく。・・・・・。おっと、神だ。アリャー、クニトコタチの神だ。何と、ここの神だったのか。・・・・・。

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