金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P60 平成25年8月23日(金)〜

 神道系の研究会とのかかわりはそうして始まった。弓彦にとって会長はそれほど魅力のある神道家ではなかった。人間性も受け入れられるタイプではなかったし、反感や反発を感じる方が多かった。しかし天谷鎮夫が言うように何かがあることはあった。そのまま無視してしまえない何かがあるように感じられた。人間性とか倫理観などとは無縁の何か、簡単に言えば本物という感じがする何かがあった。反発しても無視しても、いやそうすればするほど気になって仕方がない何かが、彼の中でうごめいていたのである。
 家に帰って紀子にその日のことを話すと、彼女は気味悪がった。
「何をする会なんですか?」
「まだよくわからない。何かがあるような気はするんだけど、それが何なんだかもう一つつかめないんだ」
「やめないんですか?」
「もう少し突っ込んでみたい。それからでも遅くはないだろう。何かが引っ張るんだ」
「葉子さん?」
「そう思うのか? それは違う。それとは違う研究会の会長の何かだ」
「天谷さんはどんな方?」
「彼は葉子向きだよ。そちらはいいんだ。だけど何かが違う。ちょっと待てよ、何かが違ってる。おかしいな。彼らは間違っているような気がするけど、なぜこちらは引っ張られていくんだろう?」
「私達を変な所に連れて行かないでくださいね」
「そうだな。気をつけないと元も子もなくなるからな」  これが神秘的な領域というものなんだろうか? おかしいな。何かが取り付いているんだろうか? しつこ過ぎるぞ。これでは何もできなくなる。それほど俺はあちらを認めてはいないぞ。これは変だ。この感情は自分のものではない。おや、消えたぞ。やっぱり何かを仕掛けてきたのか。行者と言うやつはだから嫌いなんだ。だけど何なんだ。何かがあるという感覚は自分のものだと思うんだが、また来た。あちらの何かを探ろうとするとやってくるわけか。
 これは問題だぞ。ここに一線があるわけか。これを越えないと向こうへは行けないわけだ。だけどこれを越えて行くだけの価値があるんだろうか? 下手をするとやられてしまう。それに打ち勝つだけの能力が自分にあるんだろうか?ここにきてまた昇がおかしくなっている。哲のせいだろうな、おそらく。哲が呼んでいるんだろう。こちらがおかしくなってしまっているからだろうか? 必ずしもそうとは思えないんだがなあ、こちらは。
「昇、哲か? 何だって?」
「哲おじさん。何にも言わない。でも何だか困っているみたい」
「お父さんが間違っているって?」
「そんな感じじゃないけど、何だか変。いつもと違うよ」
「そうか、そうだろうな、でもそちらを裏切っているつもりはない。忘れているわけではない。仏教だけでは足らない気がするだけだから。こちらが気になるから、少しこちらを調べてみると言っておいて」
「わかった。行っちゃった。わかったみたい」
 哲のことがあったんだ。忘れたわけではないけど、ちょっと波長が違うからなあ。どうなっていくんだろう? そうか、そうだな、哲とは違う何かなんだ、これは。こちらとの付き合いが始まるのかな。何だかこちらのはしつこくて激しいな。いったいこれは何なんだろう? これがいると哲は来れないわけだ。その調整はどうすればいいんだろう?

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