金曜日 仕組み小説第二部「再出発」 | ||||
4 P34 平成23年9月30日(金) | ||||
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〜違いのないところであった。そのことが紀子の方に気持ちが向かわない原因だとも思われて、彼は素直に葉子のアドバイスを受け入れられないのだった。つまり狂い回っている葉子は彼女の本来の姿ではなく、とても受け入れられる状態ではなかったけれども、まともになった今の彼女が彼にはやはり理想像に見えてくるわけで、そこのところの矛盾に打ち勝てない自分が彼には情けなかった。 波長が合っているようで肝心のところでは反発してしまう矛盾、崩れてすがりついてきた彼女を支えられなかった弱さ、立ち直った彼女に対する憧れ、それらは結局自分にきちんとした立場が確立されていないところに原因があることは、わかり過ぎるほどわかっていた。だからといって自分の思いを貫こうとすれば、彼女から遠ざかることになるだけだし、自己確立をしようとすれば葉子ではなく、紀子に向かわざるをえなくなる。その方がまともな人生であることは、外目には明白なことかもしれなかった。 「だけどなぜ小説が書けなくなってしまうんだろう?」 「まともな仕事に就こうとしているからではないの? 単純に時間とか余裕が今はまだないからでしょう」 「そうかなあ。だったらなんで君とだったら書きたくなるわけ?」 「さあ、骨董品並だからかもしれない」 「意味ない」 「暇なときにはお付き合いしますよ、必要なら。あなただけというわけにはいかないけれど」 そうして葉子と対話しているときも、弓彦の精神は明るく輝き続けていた。自分が自分であることを失ったわけではなかったが、以前の暗くて歪んだ内面はどこかに行ってしまって、今では戸惑うほど過去が遠くなっていた。小説が書けなくなっているのはそのせいなのかと改めて考えてみても、どうしてもそれが原因であるとは思えなかった。そのことはむしろ反対で、当初はその体験をどう小説に取り入れるか、そのことばかりを考えていたからだった。確かに生活のための自己調整が、創作意欲を阻害していることは物理的にも言えることだった。しかし、だったらなぜ葉子は創作意欲を刺激するのだろう。その分析をしておかないと、今後の方針を定めることは難しいように思われた。 「モデルが必要ということでもないのだろう〜 |
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