金曜日   仕組み小説第二部「再出発」
5 P43 平成23年12月2日(金)

「食事がもう少し残っている。囲碁の仕事はすぐ始まるわけ?」
「合格の通知が来ただけだから、今後のことはまだ。そのうち日本碁院と調整してということになるはずです」
「こちらとの調整をどうすればいいのかな。昇の方を僕に慣らすことが先だな。今まではほとんどまともな接触はなかったようなものだから。慣れてくれるかな」
「だいじょうぶでしょう。先程の感じだと母や私よりも扱いがうまいくらいだから。だけどやっぱり取られるような気がする。私のほうも慣らしてください。昇ばかりではなくて」
「そんなに大袈裟に考えなくても何とかなるんじゃないか。だけどあっちもこっちも急にバタバタし始めたから、こちらももう少し自分の位置をはっきりさせないと具合が悪い。少なくとも文章で生活ができるくらいにはしておかないと」
「小説にこだわらなければ、父のツテでどこかの出版社に持ち込むことはできるかもしれないから、とにかくまとめてみませんか? 作品がなかったらどうにもならないもの」 「そうしてみる。余裕がなくなってきたことは間違いない」
「それより先程の話ですけど、ほんとうに哲兄さんの感じがしたんですか? 昇に取り付いていることになるんですか?」
「さあ、そこまではよくわからない。ただそんな感じがしただけだから何とも言えない。そこらあたりをこれから探ってみようというわけだ」
「もし付いていたらどういうことになるんですか? 精神病になるとか、何かの障害が出るとか、あちらに引っ張り込まれるとか、そんな心配はないんですか?」
「ああそうか、君はそういう領域で見るわけだ。言われてみればそういう心配をする方が普通かもしれないね。こちらはまだ興味本位で面白がっているのかもしれない。だけど君は僕のような半気違いと結婚してしまっているじゃないか」
「哲兄さんに近かったから」
「それなら何も心配することないんじゃないか」
「どうしてですか? 哲兄さんは死んでしまったんですよ。昇が死なないという保障はどこにもないじゃないですか」

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