金曜日   仕組み小説第二部「再出発」
6 P44 平成23年12月9日(金)

「そうかなあ。そういうことになるのかなあ。そういう考え方をするのが普通なんだろうか?」
「ともかく私は昇を普通の人間に育てたいんです。異常だったり、奇矯だったりする以前に」
「それはわかるけどあまり過剰に反応しない方がいいんじゃないか? 今日の君はちょっと変だよ。囲碁のプロになったことで興奮しているんじゃないか?そこからくる先行きの変化に不安を感じているんだろうな」
「そうかもしれない」
「ごちそうさま。さてそれではプロ合格の記念碁をやろう。お祝いということで置き石は二子にしよう」
「無理、自信をつけているから四子でしょう」
「そう言わないでそれでやろう」
「逆込みをつけますよ」
「うーん、それじゃこちらの勉強にならないだろう」
「だけどこちらがやる気になれないもの。指導碁でいいならそうしますけど」
「そんな碁うてるか。いつでもうてるんだから記念碁くらいは特別なものにしよう。死にものぐるいでやるから」
「だめですよ、私の方が上がっているんだから。いつもの三子でどれくらい上がっているか確かめてください」
「しょうがないな。負けてはあげないよ」


  6
 プロ棋士としてのスタートをきった紀子、そして幼児の世話に取り組み始めた弓彦、さらにチェコの嫁を伴って帰国した長兄の剛、岩間家に新しい風が吹き始め、にぎやかに、華やかになり始めるにつれて、弓彦の立場は次第に狭まっていった。店の方には用事のあるときしか出掛けなくなり、紀子の仕事に合わせて家事や幼児の面倒をみながら、彼は著述に真剣に取り組み始めた。

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