金曜日   仕組み小説第二部「再出発」
7 P55 平成24年3月9日(金)

「呼びにくくないですか? 恥ずかしい気がする。外で遊んでいる子を『ほこり』って呼べますか? 恥ずかしいし、かわいそうでしょう」
「そうかなあ。考え方感じ方の問題ではないかな」
「自分の子供に『魔王』と名付けて役所に拒絶されたケースもある。その親はどんな人間なんでしょうね。親の人間性が現れているような気がする。あなたにもそうしたところがある」
「反対かもしれない」
「どういう事ですか?」
「その子は魔王の生まれ変わりだったかもしれない」
「それを知ってて付けたんですか? それならそうならないような名にすべきでしょう?」
「普通はそうだろうな。だけど家族が悪魔族だったら?」
「それだったらよけい隠すでしょう。まともな人間に悪魔の子が生まれたら、お前は悪魔だ、と言うかしら? まるで小説。自分の子供を小説の主人公にしないでください」
「うん、ちょっと面白いね。確かに僕は名前の付け方が下手だな。小説でも苦労している。そうだなあ、女の子の方は君にまかせることにしよう」 「ありがとう。実家に相談してもいいかしら」
「いいよ、もちろん」
 数日後のこと、日本棋院の仕事から帰って来ると、紀子は女の子の名を「ゆりか」にしたいと弓彦に話した。
「クラブのホステスみたい名だな。最近はそういう流れではあるけどね。だけどそういうのは男が選ぶんじゃないのかな」
「またそんな嫌味を言う。実家や骨董品は堅苦しいから柔らかい感じにあこがれがある」
 百合香、由里花、ユリカ、由里華、優里、友梨 友梨香、友梨江、友梨子、ゆりか‥‥などと、弓彦は紙に鉛筆で書いていった。紀子はそれを眺めながら別の話をした。
「実家へ行ったらあなたの小説の美術製本‥‥」
「出来た?」
「出来てた。素敵な装丁、さすがナターリエさんという感じ」
「ほんと、希望者がぼちぼちあるから僕のは少し待って、いいのを選ぼう」
「一冊ずつみんな変えられるのかしら?」

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