金曜日   仕組み小説第二部「再出発」
7 P61 平成24年4月20日(金)

 帰宅した弓彦を迎えた紀子は女の子を抱いていた。夜の十時を過ぎていたので昇は眠っていたしa、女の子もおっぱいを飲みながら寝ているような状態だったが、紀子は彼のためにお茶を入れて一息させてくれたのだった。
「葉子さんどうでした?」
「いつものようだったよ」
「ナターリエの装丁本を持って行ったんでしょう?」
「それは喜んでくれた」
「この子のことは話したの?」
「話しにくい。焼きもちを焼くというのかな、いつものことなんだけど、君のことは受け入れてはいるんだけど、こちらがうまくいっているとそれで苛立つようなところがある」
「あちらはいい状態ではないんですか?」
「再婚したいようなことは言うよ」
「そうですか。いい人が見つかるといいですね」
「それが変なことになってきたんだ。彼女の子供を預けられるようなことになってしまった」
「どういうことですか?」
「こちらが悪いんだけど、彼女には死んだ子供、征司という名だそうだけど‥‥‥」
「初めて聞く名」 「そう、今までは聞けなかったんだ。だけど今日は、なんだか彼女そのことで苦しんでいるようだったから、聞いてみたんだ。彼女にまだ憑いているらしくて、行者によるとまだ二才なんだそうだ。それが気になって仕方がないらしい」
「あなたが哲兄さんから逃れられないのと同じ感じ」
「そうなんだろうか」
「それでどうなったんですか?」
「その征司という子に探りを入れることの許可をもらったんだ」
「哲兄さんみたいに?」
「そういうことになるね」
 紀子は怒ったわけではなかったが、黙り込んで思いを巡らせているようだった。弓彦は隠しごとをすることが嫌いだったし、特に葉子のことに関しては洗いざらい話してきたし、それで彼女と定期的に会うこともできていたので、今回のことも隠し立てすることなく話したのだった。しかし、葉子の子供に対しての感情は、他者の子供であることもあってか、多少の抵抗があったのだろう。
 一息いれた弓彦は風呂に入ってくつろいだ。征司のことが意識から離れないので、湯船につかってリラックスしながらそちらに意識を向け続けていた。すると哲の時とは違う子供の気配が感じられたので、そちらとの調整をし始めた。喜んでいるような感じがあるので、彼も安心してそうした調整をすることにしたのであるが、それがどういうことで、どんな展開になるのかは、まったくわからないままだった。そして、彼の意識に「ゆみこ」という女の子の名が浮かんだ。風呂からあがった彼は、女の子に添い寝している紀子にこう言った。
「この子は『ゆみこ』、ひらがなの『ゆみこ』にしよう」

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