金曜日   仕組み小説第二部「再出発」
P62 平成24年4月27日(金)

  8

 あれから二年の年月が流れ、ゆみこは二才になっていた。ゆみこが弓彦の弓からきていることに当時彼は気がつかなかったが、紀子の方はすぐ理解して、それを素直に受け入れてしまった。それも何か変な感じであったが、ひらがなからは漢字の弓の連想は一般的ではなく、むしろ由美子とか、優美子といったものが多く、子を取れば裕美や友美、祐実といった変化もあり、それらを包含するひらがなは、日本的でゆったりしたものになるところが落ち着きの原因だったのだろう。紀子の方はそれが弓彦からきていることで満足していたが、弓彦の方はそれが征司がらみではないかと疑っていた。
 そのことはともかく、ゆみこと弓彦の間は変に波長が会うし、昇に哲を感じる時があるように、ゆみこには征司を思わせる感覚が生じることに彼は気がついていた。そのことに彼は不快感を抱くことはなかったが、わずらわしい思いになることはあって、それが紀子に悪影響を及ぼさなければいいがと気使うこともあった。葉子との約束があったため、そのことは受け入れなくてはならず、彼の異次元調整のために必要なことではあったにしても、普通感覚としては紀子が心配しているような異常なものになりかねないからだった。
 車を手に入れた弓彦は、紀子が休みのときは近間のあちこちへドライブすることで、家族の歪みの調整をはかることにしていた。紀子の実家に頼るだけでは不満もあったし、弓彦の実家との調整もしなくてはならなかった。次男の彼は実家にはあまり興味はなく、むしろ紀子の家族との接触の方に向かいがちだった。その傾向が強過ぎると、紀子の方が気を使って彼を実家に向かわせるので、月に一度は彼の実家までドライブする習慣ができていったのだった。

back next
e-mail:ksnd@mail.ksnd.co.jp
Copyright © 2012 Kousendou,Inc. All right reserved.