月〜金曜日   聖なる地
P7 平成24年7月5日(木)〜

「オーストラリアの十神界の仕組み名を教えてくれない? あなたならわかるとヌアネルの神が言うから」
「僕は知らない。信晴叔父さんに聞けばわかるはずでしょう?」
「彼では駄目なのよ。彼は拒絶されている。仕組みのことも彼のものとは違うものがあるらしくて、それはワタルの方がいいと言っているから」
「そんなこと言ったってこちらは何も知らないし、わからないよ」
「それでもワタルの方が感覚が合うらしい。私を仕組みの先導役の所へ連れて行ってくれない? 信晴は嫌がるから」
「僕が? 僕は彼のことは知らないし、会員でもないよ」
「それでも会うことはできるでしょう?」
「彼は日本語しか話せないはずだよ」
「ワタルが通訳してくれれば問題ないでしょ。私も日本語勉強しようかな」
「日本で働くのか?」
「そちらの方は年だからもうだめよ。年をごまかしてまでやりたくないし」
「じゃあ何で日本語なんか」
「オーストラリアの仕組みの神が、宇宙では日本語が主流になっていると言っている」
「まさか」
「私も最初は信じられなかったけど、最近では何かが違ってきている。どっちみちそちらの領域で生きていくしかなくなっているんだし、それならとことんやれるところまでやってみたい」
「わかった。彼の所へ連れて行くところまでは協力する。それ以上はどこまでお付き合いできるかわからないけど」
「ありがとう」
 そんなこんなで何だかまた変な流れになってしまって、ワタルは戸惑うばかりだった。そんなことが進行している一方で、ワタルの視野にオーストラリアのシドニー出身の、サラ・オレインという新進の女性歌手が入ってきた。彼女は交換留学生として東大に在籍したこともある才媛とのことだった。『またサラだ』とワタルは何だか変な気持ちになりながら、シドニーの勇吉に東京恵比寿でのライブに来るようにと誘いかけた。
「ヘイリー並みのピュアボイスだぞ。ちょっとハスキーだけど、三オクターブだと。ヘイリーの妹のソフィーより先に出てきた」
「行けたら行くけど、彼女はこちらでも知られている。日本語もしゃべるから、日本でも活躍することになるのかも」
「父親が外交官だから、音楽以外の領域に向かうかもしれないな。歌の方はちょっと甘い感じがする」
「アメリカで受け入れられないと、イギリスだけでは世界的にはなれないしな」
「マードックあたりがねらっているという情報もある」 
「マードックが? いったいどこからそんな情報を拾ってくるんだ?」
「秘中の秘」
「またあの女か。俺は嫌いだよ、ああいう気持ちの悪いのは」
「そう言うなよ。彼女日本語を勉強して日本に来るようなことを言っていた」
「まだ付き合っているのか?」
「いや、ちょっと頼まれたことがあって」
「おやじもおやじだよ。お前は縁が切れたと思っていたのに、いいかげんにしろよ。そういうことなら今回は日本に行くのはやめる」
 勇吉の態度から、あまり変なことに巻き込まれない方がいいのかもしれない、とワタルも考え直して、早い目にけりをつける方策を考え始めた。そしてサラに交換条件として、五名の女性歌手に対してのチャネリングを申し込んでみた。「やってみる」という返事だったので、彼は信晴の本を持って先導役に会いに行った。先導役は彼の話を聞いて、快く十神名を教えてくれた。秘密事項ではないからということだった。そうした成果をもとにサラに電話をすると、彼女も快く彼の要求に応えてくれたのだった。

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