月〜金曜日   密林の陰から
P1 平成23年12月14日(水)〜

 僕はしがないサラリーマン、名を三太という。三十五才の独身で、多少のお金はあったが、女には何故かもてなかった。家庭生活を望まなかったわけでも、結婚恐怖症だったわけでもない。理想が高かったのか、あるいは面食いだったためなのか、ただ単に適当な相手が現れなかった、と言うだけのことなのかもしれないけれども、女に縁がなかった。
 その代わり、旅行が好きだったので、あちこちに一人で出掛けては孤独をまぎらわしていた。外国にも行きたかったけれども、なぜか日本から出られないので、日本の各地を巡り歩くことを趣味にしていた。しかし、女っけが無いというのはいかにも辛いし、寂しくもあるので、結婚をあきらめかけた頃から、色町に通うようになってしまった。好いこととは思わなかったし、まともな結婚生活を望んでもいたので、そうした遊びはしなかったのであるが、おかしなきっかけで変な店に引き込まれ、それからは少しずつ深みに入っていったのだった。
 あるとき、大阪の道頓堀にあるホテルに泊まっていたとき、自分で意志したわけでもないのに、フラフラと色町に導かれてしまった。それは酒を飲んでいたからで、しらふの自分であればブレーキがかかってしまう意志が変に浮ついていて、誰かに内部から操られるようにして、色町に入り込んでしまったのだった。そして待ち受けていた引き込みに、あっという間にいかがわしい場所に連れ込まれていたのだった。
 色町には近寄ることすらしなかった自分には考えられないことで、その時はいったい何が起こったのかよくわからなかった。それでも自分の中で、もうそろそろそういうことをしても好いのでは、というような意志が湧いてきたりして、酒のせいもあってそれに流されてしまったのだった。そして初めての経験なので、巷で語られるそうした場所がどんなものかと半分は興味を感じながら、隠された場所へと導かれていったのだった。
 そこは薄暗くて狭い部屋で、そこで待っていると若い女が入って来て、いかがわしいことをし始めた。こちらは初めてのことなので、何をされるのだろうかと興味本位でされるままにしていた。しかし根が正直者なので、こんな所は初めてで勝手がさっぱりわからない、などと言ってしまっていた。そのうぶな僕の足下を見て女は、変な手法でこちらをたぶらかし始めた。やることをやらずに金をだまし取るやり方だった。
 引き込み役の男や受付の男などが感じが悪いので、はめられたとまもなくわかってきたのだけれども、しばらくは少しずつ金をかすめ取られながら、終りにするきっかけを待っていた。しかしいつまでも止めようとしないので、これで限度というところで高過ぎると言って、女を振り切って店を出た。それが最初の最初だった。ところがそれで懲りるのかと思ったら、逆にそれをきっかけに色町研究が始まってしまったのだった。そして、しばらくは色町に通っていたのだった。
 それでも何かが足りないので、それが何かを探し始めることになっていった。その一つに、やはり外国のことがあるように思われた。何とかして行きたいと思うのだが、結婚相手が現れないのと同じように、何故か外国には行かれない。無理をしてでも行こうと強行すると、変な事故が起こってしまう。初めは偶然だと思っていたけれども、それが度重なると、やはり外国へは行かれない何かがあるとしか考えられなくなってしまう。それでしまいに諦めてしまったのだが、その代わりに思いついたことがあった。それは色町で外国の女性と遊ぶということだった。

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