月〜金曜日 夢かうつつか幻か | ||||
P8 平成23年12月2日(金)〜 | ||||
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危子は非常に美しい女性でした。黒魔神と聞けば、誰だって恐ろしい容姿を想像してしまいますが、場合によっては逆に深い神秘的な美しさが出てきます。激しく吹き出そうとする魔的な思いを強い意志でコントロールするところから、そうした感じが出て来るのでしょう。彼女もそうした女性の一人でしたが、最近何かが変り始めているようでした。それは今まで静かに深く沈めていた魔的な思いを、かなり自由に表に現すようになったからではないかと思われます。桃源郷の色町でもてはやされ、年季奉公も残り少なくなったことがそのことの背景にはあったのでしょうが、それでも自分の思いを自由に表に現せば、それなりの本体が出て来ることになってしまいます。 口が裂け始めたのです。魔神組とのお付き合いが多くなり、波長の合うお相手との交流によって、魔神の本性が出て来てしまうのです。顔に、特に口に何か変な感じがあるので、鏡で顔を映してみて初めて知ったことでしたが、それはそれは恐ろしい出来事だったのです。初めはそれがどういう事なのかまったく理解出来なかったのですが、佐田という方の著書にそのことが書かれていましたので、危子は著者に確認したうえで、そのことを受け入れたのでした。それはそれは彼女にとっては辛いことでしたけれども、地上の人間世界で自分を押し殺して生きる不自由から考えれば、宇宙革命に参加する意義を感じながら生きる方がずっといい、そう思われたのでした。 ところがそんな生き方をするようになり始めると、何故かしら地上には戻れなくなりそうな気がしてくるのでした。おそらくそれは地上では口が裂けることはない作りになっているからだろう、と思われるのでした。そうなるとどちらかを選ばなければならなくなるわけで、その選択に頭を悩ませているというのが、彼女の現状だったのです。ダンコン青年にそのことを言うわけにはいきませんでしたので、彼女は口がむずむずし始めたとき、扇で静かに口を隠したのでした。 「体調がお悪いのですか?」 「そうですね。少しはしゃぎ過ぎたのかもしれません。あなたがあまりにも好青年だから、ついつい調子に乗って話し過ぎてしまったようです。今日はお遊びはしない方がいいかもしれませんね」 「それは困りましたね。それが楽しみでここまで来たのに」 「あなたに合うような素敵な方をご紹介致します」 「そういうことならもう少しお話をさせてください。そして教えてください」 「今日はもう無理かもしれません」 「どうされたのですか?」 「女の本性が出てきてしまいました」 「どういうことですか? 体調の不具合ではないのですか?」 「宇宙には作り間違いがあるのだそうです。特に女や子供達に」 「例えばどんなところですか?」 「それは私からは話しにくいので、佐田という方の著述をお読みください。黙って静かにしていれば次第に落ち着いてはくるのですけれども、ここにいると治りにくいのです。地上に帰った方が治し易いので、これから帰ってその準備をしたいと思いますので、これくらいにしてください」 「今度はいつ会っていただけるのですか?」 「さあ、わかりません。あなたもこちらには自由には来れないのではありませんか?」 「地上でお会いすることは出来ないでしょうか?」 「あなたは日本で働いておられるのですか?」 「そうです。日本のどこかでお会いすることは出来ないのでしょうか?」 「多分それは止めた方がいいのではないかと思います。こちらでいいのではありませんか?」 |
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