月〜金曜日 短編小説「あなたはエンジェル」 | ||||
P2 平成23年2月3日(木)〜 | ||||
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アンジェラは正座ができないため、足を崩してしか座れず、背筋が曲がるので、タケルは彼女を側臥位(横向き)に寝かせた。そして右側の首筋から脊柱、肩甲骨の周辺のしこりをほぐしていった。彼女は日本の指圧のことを知っているらしく、おとなしく彼の手技を受け入れていた。前回彼女の痛みを和らげたことが、彼女の彼に対する信頼感を増していたのだろう。 「指圧してもらっているの?」 「週に一度だけ、痛いから。でも今週は行かない」 「どうして?」 「今やってもらっているから。同じようなことをしている」 「だけど時間が少ないよ。時間内にはとても全部は出来ないから」 「でもいい」 タケルは反対の右側の方も同じように調整し終えると、アンジェラと正面に向き合って、顔面の指圧をしていった。彼女は二十三才ということであったが、苦しみのためか、三十代を越えた表情をしていた。白人系は大人びて見える傾向があるけれども、彼女の場合は若々しさを失って、くたびれ果てている表情に見えた。 「眼も痛むって言ってたよね」 「そう、眼の裏の方が痛い」 「一週間に一回指圧してもらっても治らないんだね」 「少し良くなるけど、すぐまた痛くなる」 「ああそう。そうだねぇ、君は多分ガードし過ぎる。それでかえってしこりがひどくなるんだと思う」 アンジェラは何も言わなかった。二度目はそれくらいで終った。 「また来てね」 「来れたらね」 そう言って別れたが、タケルはもう来るつもりはなかった。苦しがって自分を解放しない女と遊んでも面白くはなかったし、指圧師でもないし、金にもならないことをしてまでアンジェラと遊びたくはなかったからであった。深入りするとめんどうなことになるかもしれないし、それほど気に入った女の子でもなかったからであった。 ところが彼女はしつこかった。彼女の念は、彼の意識をしつこくとらえて離さないという、強引なものであった。もちろん間があいていたから彼女が仕事をしているときとか、眠っていると思われるときは、何もなかった。しかし彼女が自由なときは、眠っているこちらを起こしてしまうほど強烈だった。 あまりにもしつこいし、こちらの身体に痛みが移ってくるようなやり方をするので、彼は彼女のミタマを調べてみた。すると彼女のミタマの次元は霊界次元にあって、神界レベルにまで届いていたわけではなかったが、かなり熱心な信者であるということがわかってきた。もっとも避けられないほどの痛みがあるとすれば、救いを求めて一生懸命に祈るのは、当り前のことであったろう。 彼女が元々熱心なクリスチャンであったかどうかはわからないが、身体を痛めてでも借金を返さなくてはならないまでに身を落とし、更生するためにもがいているとしたら、その思いは強烈な祈りに結びつくことになるに違いない。そういうことであるとすれば許せないわけではないが、それにしても彼に救いの天使を見てすがりついてくるのは、彼が身に受ける分行き過ぎではないかとも思われるのであった。 しかし、彼女はイエス・キリストはもちろんマリアにもすがりついたに違いないが、反応がなくて天使に祈りを捧げているのだろう。信者にはそれぞれ霊界次元で守護天使が付けてあるのがキリスト教であるならば、その守護天使に窮状打開の祈りを捧げてもいるのであろう。 |
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