金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P47 平成25年5月31日(金)

 山歩きに慣れてきたことと、大岳山の笹目仙人のことが気になって仕方がないので、弓彦は十日ほどたってからまた奥多摩へ向かった。昔の山道を登って御嶽神社に参拝し、その後で大岳山に入って行ったのだった。御嶽神社ではもう何の反応もなかったが、大岳山に向かう入り口の所では、やはり訳のわからない恐怖感が湧いてくる。しかし彼はそれを無視して山頂に向かうのだった。
 彼は笹目仙人のことを少し調べていたが、東京に笹目仙人が所属している神仙道の会があった。そこに行けば会えるチャンスがあるかもしれなかったけれども、どうしてもそうする気にはなれず、山の中の道院の周辺で様子を伺ってみるくらいのことしかできなかった。そちらに案内もなく出向いて強引に会ってみようなどと考えたり、縁があれば道院の外で会えるかもしれないと思ったり、その程度の感覚で山に入って行ったのだった。
 何がそんなに気になるんだろう? 必ずしも彼に会って道をたずねたいわけでもないのに。あれだけ憧れていた仙人なのに、いざその門が目の前に出て来ると、臆してしまうというのはどういうことなんだろう。人見知りといっても、必要なときにそれを拒絶するほどひどくはないぞ俺の意思は。何かが違うんだろうなきっと。
 山道を登っていく途中から道院は見える場所にあって、別荘か特別な山荘のようにも思えたけれども、既に確認がとってあったのでその点に関しては意識がぶれることはなかったが、やはり納得いかない何かがあって、彼をそちらには向かわせないのだった。それよりもその時彼の感覚に触れてきたのは、大岳神社の方だった。道院に違和感を感じるぶん神社に気持ちが向かうのか、その時は素直な気持ちで神社にお参りする気になったのであった。
 おかしいな。祭神は大国主大神と少彦名大神になっているのに、スサノヲのような気がするのはどういうことなんだろう? この前もなんだかそんな気がしていたように思うけど、何かあるのかな。変だな、そのことばかりが気になり出したぞ。だからといって何をどうしていいかわかるわけでもなし、ここにいつまでもいるわけにはいかないんだから、山の上まで行くしかないわけだろ?山の上には何もないけど、とりあえずは山頂まで行くのが筋だよな。

back next
e-mail:ksnd@mail.ksnd.co.jp
Copyright © 2013 Kousendou,Inc. All right reserved.