金曜日   仕組み小説第三部「光を求めて」
P55 平成25年7月26日(金)

 静かだ。何もない。それでもここでいいという感じがする。落ち着いたこの感じ。しかしそれではどうしろというんだろう? 哲の感じはまったくない。どうすればいいんだろう? 葉子か。また葉子。結局葉子に行き着くしかないのか? いや、ちょっと待て、彼だ、天谷鎮夫、哲ではなくて天谷鎮夫、そちらに行けということなのか? あの時彼はまだ時ではないといった。まだ準備が出来てはいないと。時が来たのか? 準備ができたということなのか?
 違和感はなかった。参拝を終えた彼は来て良かったと感じていた。そのまま帰ることに何の未練もなかった。遠方までやって来て、神社に参拝しただけで帰る。そんなことは初めてのことだった。たったそれだけで満足して帰るなどということは、今まで経験したことのないことだった。その珍しい感覚を確認しながら、また葉子や天谷鎮夫のことを思い出しながら、彼は電車の駅に向かうのだった。そして葉子に電話して、彼女の婚約者に改めて会ってみるつもりになっていた。今度は自分の方から彼に向かってみるつもりになっていた。

 次の七節からは表の右脇のコーナーに連載することになります。

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