月〜金曜日   高級娼婦
P12 平成24年11月26日(月)〜

 レストランでの会談に一区切りつけた彼らは、タクシーで皇居の前庭まで行き、二重橋あたりから大手門まで移動し、そこから東御苑に入っていった。門を入ってすぐの所に、天皇家の美術品を展示している三の丸尚蔵館があり、そのときは「描き継ぐ日本美−円山派の伝統と発展−」という特集になっていた。二人の男性が観たがったので、その小さな美術館に入って一通り眺めてから、二の丸の雑木林へと歩いていった。
 その日は暑かったがそれでもかなりの人がいて、歩きながらの会話はごくごく普通の中身になるしかなかった。汐見坂から楽部の建物の前を通って広々とした芝生の大奥跡に出ると、天守閣のない、土台だけの天守台が眺められる芝生に座って、彼らはまた異界の話に興ずるのだった。竹橋の平川門へと抜ける道の左手に白っほい天守台、右手には桃華楽堂の奇抜な音楽堂が眺められる位置の、松の木で日陰が作られている芝生の上に座って、彼らはしばらく話し合ったのだった。そして、最後に静は声をひそめるようにして語った。
「皇太子妃に対しての周囲の無理解と誤解について、私の個人的な立場からの思いをお二人に話してみたいと思います。それをどう受け止めようとかまいませんけれども、久々の出会いが気まずいものにならないように、心の準備をしておいてもらえたらうれしい」
「ほう、それは珍しい」とロナルド。
「私は皇太子妃とは直接お会いしたことはないけれども、そういうお話はうれしいですね」とエドガー。 「仕組みでは現在魔神調整が進められています。魔神には白と黒があって、白魔神は善に対応し、黒魔神は悪に対応しています。それは人間世界でも同じですが、白い場合は正神なのか白魔神なのか、普通では明確な区別がつきません。でもそこには確実な区別があって、白魔神の場合は偽善者になりやすいんです。それはそれとして、今仕組みのエネルギーが大きくうねっていて、白魔神が黒魔神に変貌していくケースがあるんです。もちろん全部ではありませんけれども」
「それは魔神だけですか?」とエドガー。
「正神が魔神化することはないんですか?」
「あります。しかしその場合は、生命進化の自然の流れで起こる現象ですが、今回の変化は仕組みのスピードが速いため、途中で巡り始めてしまいました。宇宙の場合は無源回帰して調整すればいいのですけれども、地球の物質人間の場合は無源回帰できませんので、生きながらに調整しなければならなくなってしまっています。この変化が彼女にも起こっているんです。このことを理解してあげてください。魔神は本来が悪ですから言動に魔的なものが混じります。生まれ変わって生き直す場合は問題はないわけですが、一つの人生で変貌すると大問題が起こってしまいます。黒魔神は正しい世界では生きられませんので、寡黙になるしかない。魔的な言動を抑えることは、慣れないと非常に難しいんです」
「わかるような気がする。私の周りにもそういう人間がいるから」とエドガー。
「そういうことなのか。それで理解できるような同僚が確かにいる。世界で魔的な動きが激しく出ているのもそのせいなんだ」とロナルド。
「私は今日の会合には出られませんが、お二人を送り出すにあたって、それだけの思いをどうしても伝えておきたい。彼女に早く巡ってしまってほしいからです。もう少しなんです」
「巡るとは?」とエドガー。
「今回の調整は巡ることで脱皮できる性質のものです。仕組みの進行が速いので、早く転換できてしまうのです。一生をかける必要がない」
「どういうことですか?」とロナルド。
「黒魔神が正しい神に脱皮して進化してしまうのです。若い天皇家の彼女には、ぜひそのことをやり遂げてほしい。天皇家の調整のためには必要不可欠のことですか
ら」  それだけを語ると静は、もう自分の役目は終わったとでもいうように立ち上がった。そして、二人を散歩の締めくくりへとうながすのだった。

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