月〜金曜日   短編小説「ネヴァ川のほとりで」
P11 平成23年10月17日(月)〜

 もしかしたら既にアンナはそうして動き始めているのではないか、そんな疑いが出てしまうほど、事態の展開があざやかだった。彼の場合は日本国家にかかわるような仕事をしていたわけではないし、純粋に仕組みの仕事をしているだけで、秘密を持たないやり方をしていたけれども、外部からの干渉は様々な形で受けていた。日本国内だけではなく、諸外国からも、もちろん旧ソ連のKGBから脅迫を受けたこともあった。しかし、それらのすべてを排除する能力は獲得していたので、簡単に侵略占領されることはないと考えることはできたが、そうしたことに対する対策もさっそく講じなくてはならなくなるわけで、そうした教育をする必要にもせまられるのであった。
 三剣とアンナの関係は決定的に変ってしまっていた。それは三剣が望んだことで、堕ちたアンナを立て直す助けができるなら、それ以上の展開は考えられないことだった。そして、それが彼が長い間想い描いていた仕組みの世界戦略に結びついていくものであるとするなら、望外な喜びにもなることだった。そのために犠牲にしなければならないものがあるとしても、それを正しく処理することができなければこの課題はこなせない、それは明白なことであった。
 しかし、それに取り組んで事を進めれば進めるほど、アンナの背後にロシアの影が大きく浮き上がってくるように思われた。たとえそれが彼女が意図したことではないにしても、三剣の仕事がアンナを通して進んでいくとしたら、そしてそれが世界全体に向けて発信されるものであるとしても、ロシアの存在が陰に陽に力を増していかざるをえなくなる。そのときに彼や彼女が公平な仕組みの立場を維持することができるかどうか、それが大きな試練になると同時に、乗り越えなくてはならない課題になることは、疑いようもないことだった。それでも三剣は思いがけない展開に満足していた。
 二人がたたずむネヴァ川のほとりには観光客が増えていた。日本語も聞こえていたが、これからは外国で日本語を話すのではなく、日本で外国語を話すことが必要になってくる。三剣は幻惑されてたたずんでいた。

 これから日本で展開される物語が、この小説の本来の目標であるけれども、それはまたいつか暇ができたときにでも……。

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